『 真夏の昼の ― (2) ― 』
み〜〜〜ん みん みん みん みん じ〜わ じ〜わ じ〜〜わ
蝉の合唱、いや 騒音のトンネルの中を少年がひとり ぷらぷら歩いてくる。
彼は小さなそしてかなりくたびれた感じのキャップを ちょい、と横向きにひっかけている。
両手に買い物袋を下げているのだが ― どうにもかったるそうだ。
「 あっち〜〜〜〜〜 ・・・ ! う〜〜〜〜 うっせ〜〜ぞ〜〜〜 セミヤロウ!
う〜〜〜〜 なんだってよ〜 オレがじゃがいもとニンジンと・・ってさ
クソ重いもんばっか買い出し当番なんだよ〜〜〜〜〜 」
ふん・・! 辺りを見回し 彼はぽいっと買い物袋を 道端の叢に投げた。
「 やってらんね〜〜〜 ちこっと休んでく! ふん かまうもんか! 」
彼はゴソゴソ・・・ポケットをさぐり くしゃくしゃになった煙草のパッケージを取りだす。
「 ふん・・・ ちょいと一服〜〜 って ・・・
へ へへへ ・・・ あのオヤジ〜 ぼ〜っと放置しとく方がわりぃんだぜえ
ありがた〜〜く イタダキマスってんだ〜 」
に・・・っと笑い 一本咥え ライターをさぐる。
「 ん〜〜〜 あ 誰かくるとまたヤベ〜な ・・・ この樹の上なら いっか 」
彼は そのまま背にしていた樹に えいや・・っとよじ登り始めた。
ちかり ・・・・ ! 生茂った葉の間から 真夏の陽光が彼の目を射た。
「 ! う ・・・ まっぶし〜〜〜〜〜 ・・・ 」
一瞬 目の前が真っ白になった。
な ・・・ なんだ ・・・?
そして ― じ〜〜わじわじわ〜〜〜 み〜〜〜〜んみんみんみん〜〜
すぐに蝉の合唱が彼の耳に入ってきた。 それに加えて ―
「 あれぇ〜〜〜 たっちゃ〜〜〜ん? カケル〜〜〜 どこ????
ともく〜〜〜ん??? 皆 どこにいるの〜〜〜 」
甲高い声が セミの声に混じって下から聞こえてきた。
「 ・・・? あ セミ捕りのガキっちょかあ ・・・
ふん しっし! はやくいっちまえ〜〜〜 」
ジョーは 大きな枝に座りなおすと ― しゅぽ。 後生大事に咥えていた一本に火をつけた。
ふ 〜〜〜〜 ・・・・ うめぇ〜〜〜〜
「 ね〜〜〜 カケルぅ〜〜〜??? かくれるの、ナシだよ〜〜う 」
白い補虫網が ふりふり〜〜右往左往している。
しつこいガキだなあ ・・・ 仲間はどっかいっちまったよ!
「 やくそくじゃ〜〜ん ・・・ セミ捕りきょうそう やろ〜〜よ〜〜〜 」
だんだん涙声っぽくなってきた。
「 くぅ・・・ な 泣かないモン! みんなぁ〜〜〜〜 どこ〜 」
うっせ〜な〜〜 あっちいけっての!
そのまま無視してしまえばそれですむのに なぜか彼はイライラし始め ― 理由は
自分自身でもまったくわからない ― ついに 枝から身体を起こした。
う〜〜〜 しょ〜がね〜な〜〜〜
トンっ! 彼は樹の幹を蹴り地上へと飛び降りた。
み〜〜〜ん みん みん みん みん じ〜わ じ〜わ じ〜〜わ
蝉の合唱、いや 騒音のトンネルの中をでっかい麦藁帽子がひとつ、たったか歩いてくる。
「 わ〜〜〜〜 いっぱいいるぅ〜〜〜〜〜♪
へへへ 〜〜〜 セミとりきょうそう〜〜 すぴか がかつからね〜〜〜 」
ふんふんふ〜〜〜ん♪ 麦わら帽子は超ご機嫌ちゃんだ。
いつも背中で跳ねている金色のお下げは 今日はしっかり帽子の中、だ。
「 セミ捕りのほうほう おと〜さんからし〜〜〜っかりおそわったも〜〜〜ん♪
今日は アタシがいっちば〜〜ん♪ 」
帽子の下では 碧い瞳がに〜〜んまり ・・・している。
じ・・・っ・・! バタバタバタ〜〜〜
「 あ〜〜〜ん またにげられたあ 〜〜〜〜 」
すぴかは ぷっとほっぺを膨らませる。
このところ毎朝 ず〜〜〜っと裏庭で蝉取りの練習をしているのだが ・・・
どうも成果はあがらない。
「 え〜〜〜 ど〜してなのかなあ〜〜〜
じ〜〜〜っとしてないてるのに すぴかがさ あみ、もってくと にげちゃう・・・
こそ〜〜っと やってるのにぃ〜〜〜 」
あ あの蝉〜〜〜〜 とれるかも! と すぴかは反対側の樹の飛んでいった。
「 よ〜〜〜し ・・・・ っと〜〜 」
そ〜〜〜 ・・・ すぴかの網が柿の木にとまっているセミを狙う。
― いけ・・・! ってその時
「 すぴ〜〜か〜〜〜 帽子 かぶれよ〜〜〜 」
でっかい声と一緒に カッコロ! 下駄の音がして ―
ジジジ〜〜〜っ!!! ・・・・セミは飛び去ってしまった。
「 あ〜〜〜〜〜 もう〜〜〜 おと〜さんってばぁ〜〜〜 」
「 あ? 」
「 アタシ ねらってたのにぃ〜〜〜〜 あ〜〜〜〜ん 」
「 ど どうしたんだ すぴか〜〜〜 」
日頃 しっかり者のお転婆娘が 天を仰いで泣いているではないか。
ジョーはもうびっくり仰天、おろおろ娘の側に飛んできた。
「 すぴか〜〜どうした?? 樹から落ちたのか 蜂にでも刺されたのか! 」
「 ち がう〜〜〜 せみさんがあ〜〜〜 」
「 せみ・さん? すぴかの友達かい? その子がどうした?? 」
「 ち がう〜〜〜 おと〜〜さんがぁ〜〜〜 おとうさんが わるいぃ〜〜〜 」
「 ??? お父さんが?? な なにがあったんだ?? 」
「 だ から〜〜〜 せみさん! にげちゃったじゃないかあ〜〜 」
すぴかは 手の甲でコシコシ涙をとばしつつ訴える。
「 え・・・ セミ・・・ 獲ってたのかい 」
「 ウン。 たっちゃんやカケルたちと〜〜 きょうそうすんの。 だかられんしゅう 」
「 う〜〜む セミ捕り競争かあ ふん ふん お父さんもよくやったもんだ 」
「 え〜〜 そうなのぉ?? お母さんと? 」
「 あ・・・ いや お母さんは虫は ちょっとな〜〜〜
お父さんな すぴかくらいの頃、蝉取り名人 だったんだぞ〜〜 」
ジョーは 娘にむかってえっへん・・・ 胸を張る。
「 めいじん? 」
「 あ〜 チャンピオンってこと。 百発百中さ! 」
「 すっご〜〜〜〜 」
「 あはは ・・・ で すぴかは? 何匹 捕まえたかい?
さっき つくつくボウシが鳴いてたけど コレクションに加えたかな 」
「 ・・・ アタシぃ 〜〜 」
すぴかは 空の虫かごをぷらん、と差し出した。
「 ありゃ・・・ まだ獲物ナシかい? じゃ 一緒にやろうよ? 」
「 わい〜〜〜〜 じゃ ゆくよ〜〜〜 おと〜さん〜〜〜 」
俄然張り切って彼女は ぶんぶん補虫網を振り回しはじめた。
「 あちゃ・・・ こりゃ初心者かあ・・・
おい すぴか。 ちょい待ち〜〜 網、貸してくれるかい。
」
「 いいよ? 」
「 いいか? もと蝉取り名人が 必勝法を教えてやるよ。 」
「 わ♪ おと〜さ〜〜ん 〜〜〜 」
すぴかは ぴと!っと ジョーの側にひっついた。
「 あはは ・・・ じゃあ ね。 まず し〜〜〜〜 だ。 」
ジョーは唇の前に人差し指をたてる。
「 ん。 し〜〜〜 」
「 そうそう それで・・・ 目標をきめる。え〜と・・・? 」
「 あ アレ! せみの木のあそこにいるヤツ! 」
「 ん〜〜? お〜〜 アレかあ。 よ〜し ついておいで すぴか。 」
「 うん! 」
二人は裏庭の隅にあるでっかい樫の樹に近づいていった。
この樹は毎年多くの蝉が抜け殻を残し成虫へと羽化して行くので 家族の間では
せみのき と呼ばれている。
フランソワーズはけっして 決してちかよらない。
「 〜〜〜〜 っと! 」
ぱふん。 ジョーの補虫網が幹を押さえた。
ジジジジ〜〜〜〜〜〜〜 バタバタバタ〜〜〜〜
「 わ すご〜〜〜〜 おと〜さん すご〜〜〜〜〜 」
「 な? さっきいった通り で カンタンだろ? 」
「 う〜〜〜 」
「 ほら すぴかもやってみよう どれにする? 」
「 え ・・・ え〜〜と ・・・ あ! あの松の樹にとまってるの! 」
「 ふん? みんみん蝉だな。 よしよし・・・ ほら すぴか 」
「 ん。 」
すぴかは 父親から補虫網を受け取ると 真剣な顔で狙いを定めた。
― で。
じ〜わじ〜わ ミンミンミン じ〜〜じ〜〜〜じ〜〜〜
半時間もしないうちに すぴかの虫かごは満員御礼になった。
「 すっご・・・! ミンミンに つくつく〜に えっとこのでっかいのは〜 」
「 アブラゼミだろ? 」
「 そっか〜〜 」
「 すぴか すごいなあ あっという間に名人だね。 」
「 えへへ〜〜 ねえ お父さん。 おとうさんは〜 セミ捕り、おじいちゃまに教わったの? 」
「 あ〜 違うんだ。 そのう なあ 神父さま さ。 」
「 へえ??? 海岸通り教会の? 」
「 あ ・・・ 別の教会さ。 お父さんがすぴかくらいの頃のことだもの
」
「 ふうん ・・・ 」
「 さ ・・・ セミさんたちを逃がしてあげような〜 」
「 え 〜〜 アタシぃ〜〜 せみさん、かう〜〜〜 」
動物やら昆虫好きのこの娘は 捕まえたモノはなんでも < 飼う > と言っては
彼女の母親を震撼させているのだ・・・・!
「 え〜と それはちょっとな〜 セミさん達はほら・・・ この樹とか裏山で
のびのび暮らすのが好きだと思うよ。 」
「 そっかな〜〜 」
「 そうさ。すぴかだって せま〜〜い部屋だけにず〜っといなさい、っていわれたらいやだろう?」
「 ん 〜〜 やだ。 すぴか お外が好き♪ 」
「 セミさんたちも同じさ。 さあ 〜〜 逃がすよ〜〜 」
「 う ん ・・・ 」
「 すぴかの練習につきあってくれてありがとう〜〜〜って 」
「 そだね〜〜 ばいば〜〜い せみさ〜〜〜んたち〜〜〜 ありがと〜〜〜 」
ジジジジ バタバタバタ〜〜 彼らは一目散に飛び去った。
「 じゃ 友達と蝉取りにいっておいで 」
「 うん♪ へへへ〜〜〜 すぴか せみとりきょうそう 一番かも〜〜〜 」
「 すぴか〜〜 水筒 もってゆきなさい〜〜〜 」
フランソワーズが庭サンダルを鳴らして 出てきた。
「 タオルもね、汗 拭くのよ〜 はい 水筒。 」
「 むぎちゃ? 」
「 ええ。 つめた〜〜いの、入ってるわ。 」
「 わ〜〜い♪ いってきま〜〜す〜〜〜 」
「 はい いってらっしゃい。 あ 神社の裏にいるのね? 」
「 ウン♪ たたんた・たん が鳴るまでにかえってくるね〜〜〜 ばい ば〜〜い 」
たたんた・たん とは この地域で夕方5時に流れる音楽で すぴかの家では
この放送までにはお家に帰っていること が約束である。
「 おう 行ってこい 」
「 おみやげはぁ〜〜 セミさんだよ〜〜〜ん♪ 」
ぶんぶん手を振ふると でっかい麦わら帽子をゆらし、すぴかは門から出ていった。
「 ・・・ ジョー ・・・ おみやげ って・・・ 」
ツンツン ― 娘を見送りつつ フランソワーズはジョーのシャツを引っ張る。
「 え? あ〜 大丈夫 ちゃんと キャッチ & リリース を教えたから。 」
「 そ そう ・・・? 」
「 うん。 < かう > って言わないよ。 」
「 それなら ・・・ いいけど ・・・ 」
「 大丈夫だって。 まあ セミ捕りに熱中するのは 小学生の定番さ。
そのうち卒業するよ。 」
「 でも ・・・ あんなに獲ってもいいのかしら ・・・生態系に・・・ 」
「 あは かまわんだろ? ここいらには佃煮にするほどいるし 」
ぴき。 ジョーの細君の表情が凍った。
「 ・・・ つ 佃煮に する の・・・? セミ・・・ 」
「 え? あ ただの例えさ ものすご〜くたくさんいるっていう比喩だよ 比喩! 」
「 あ・・・ そうなの ・・・レトリックなのね ・・・
よかった・・・ すぴかが つくだににして! って言って来たらどうしようと 」
「 な ないない! そんなこと ないよ!
うん! 日本には ・・・ あ〜 少なくともこの地域では セミは食用じゃないから 」
「 ああ そうなの ・・・ それなら 安心だわ・・・ 」
「 な〜 きみ、 ちょっとソファで休んでたら?? 顔色 ・・・ よくないよ? 」
「 え ええ ・・・ じゃあ ちょっとだけ ・・・ 」
虫苦手な島村さんちの奥さんは リビングのソファでリラックスし悪しき想像を追い払っていた。
み〜〜〜ん みん みん みん みん じ〜わ じ〜わ じ〜〜わ
「 ・・・ あれえ?? たっちゃ〜〜〜ん?? カケルぅ〜〜〜??
だれも いないよ・・・? 」
神社の裏の森の駆けこんで すぴかはきょろきょろ辺りを見回す。
あそこので セミ捕りな〜〜 ってみんなで約束したのだ。
「 時間 まちがえてないよ〜 アタシ・・・ みんな どこぉ〜〜 」
だ〜れもいなくて セミの声だけの神社の裏は ― ちょっと知らない場所みたいに感じる。
じりじりとお日様は 葉っぱの間から差し込んできて・・・
ちかり。 ― まぶしい〜っ て 一瞬目を閉じてすぐに開けたら。
「 ・・・ ここにはいないぜ 」
「 へ??? 」
すぴかの目の前に ひょろり〜と背の高い中学生が立っていた。
「 だ〜から。 さっきからオマエがさがしてるヤツらは ここにはいない。 」
「 ・・・ なんで しってんの 」
「 オレはずっとここにいるから さ 」
「 お兄さん ・・・ ここにすんでるの? 」
「 住んでんじゃねえよ。 けど ここには今だれもいねえよ。 」
「 え〜〜〜〜 だってぇ〜〜 セミとりきょうそうするって 約束したよぉ〜 」
「 へ。 知ったこっちゃねえや。 とにかくここには誰もいねえ。
公園の方にでもゆけよ チビ。 」
中学生っぽい男の子は ちょっと意地悪っぽく言ってじろじろすぴかをみている。
「 アタシ チビ じゃないよ。 」
「 ふん・・・ オレよかてんでチビじゃんよ 」
「 ・・・ けど ・・・ アタシ ・・・ セミとりきょうそう・・・ 」
ぶんっ! すぴかは補虫網を振った。
・・・ なんだか涙が出そうになったので慌てて振ったのだけれど・・・
オトコノコは すぴかの表情を見逃さなかった ― す・・・っと背を屈めてきた。
「 こら〜 泣くな 強いだろ チビ。 あは 女の子なんだ〜 」
「 だから アタシ〜 チビじゃ ・・・ う? 」
すぴかは じ〜〜〜〜っとオトコノコの茶色っぽい瞳を見つめた。
長い前髪が邪魔をして よく見えなかったけど・・・
ふふ ・・・ 彼はちょっと笑った。
「 わりぃ わりぃ ・・・ な? 泣くなよ〜 」
あ ・・・ あれ?
このお兄さん ・・・ なんか意地悪っぽくなくなった よ?
「 へへ・・・ ずいぶん 勇ましいな〜 オマエ 」
「 ! アタシ! オマエ じゃないよっ! 」
「 あ は 悪りぃ〜〜〜 でもな〜 マジお前の名前 しらね〜もんな〜 」
「 ・・・ けど 」
「 蝉捕り競争 すんのか? ここで 」
「 ウン! アタシ、れんしゅうしてきたから! きっと一番になる! 」
「 へ〜〜 ほんじゃここで ・・・ ほら アレ・・・取ってみな 」
「 どれ?? どのせみさん? 」
「 アレさ。 後ろの樹の・・・ あそこで鳴いているヤツ 」
「 おっけ〜〜 ・・・・ よぉし ・・・
」
すぴかは補虫網を構えると そう〜〜っと蝉さんに近づいていった。
ジっ! バタバタバタ〜〜
「 ! ほ〜ら とれたぁ!
」
「 へえ〜〜〜 なかなかウマイじゃないか 」
「 えへへ・・・ あ こっちにもいるね〜 ようし・・・ 」
彼女は 樹の裏側で鳴いているヤツに狙いをさだめた。
― 次々にヒットし、虫かごはたちまち満員御礼に近くなった。
「 ・・・ すげ〜な〜 チビ・・・ 」
「 えへへへ〜〜 あのね〜 お父さんがおしえてくれたんだ〜〜
< せみとり まるひ・じゅつ > だって。 」
「 え??? 」
少年は 思わず絶句してしまった。
だって・・・
目の前のちびっちゃい女の子 が おと〜さんから教わったという
せみとり まるひ じゅつ
は
彼が 小学生の頃 神父さまから教わった マル秘術 と まるっきり同じ だったから!
「 お兄さんはあ〜 せみとり、しないのぉ? 」
「 え ・・・ あ ああ ・・・ 蝉取りはガキんちょがするもんだ。 」
「 え〜〜〜 おもしろいよ? お兄さんだってすぐできるよ?
アタシのほちゅうあみ、つかっていいよ 」
ちっちゃな女の子は に・・・っと笑った。
でっかい麦わら帽子の影から見える大きな瞳は 不思議な色に見えた。
?? コイツの目の色 ・・・ 青い・・・のか??
いや・・・ 光の加減だろ うん そうさ・・・
「 ・・・ チビ ・・・ 」
「 お父さんもね〜 ちっちゃいとき せみとりめいじん だったんだって。
カンタンだよ? あ お兄さんの目 アタシのおとうさんににてるな〜〜 」
じ〜〜〜っと大きな目が彼を見上げている。
少年はなぜか滅茶苦茶に照れくさくて でも同時に滅茶苦茶に嬉しくて!慌てて横を向いた。
「 へ〜え ・・・ 」
「 うん! アタシもお父さんみたく せみとりめいじん なるんだ〜 」
くるりん〜〜 女の子は補虫網を回す。
え ・・??
こ これ ・・・ 神父様から教わった <ウオーミング・アップ >だぜ??
こ コイツの親父ってのは やっぱ教会の施設で・・?
いや そんなワケねえよ!
「 と とにかく だな〜 あ〜・・・ 女の子は女の子らしくしてたほ〜がいいぜ。 」
「 ! お兄さん! そ〜ゆ〜こと言ったらいけないんだよ? 」
「 ひえ〜〜 元気なちびっこだなあ 」
「 あのね! せくはら っていうんだよ? 」
「 なんだ それ ・・・ 」
「 しらないの?
おんなのこもおとこのこもおんなじ ってこと 」
「 あは そりゃ〜 違うんぜ。 オトコとオンナは別の生き物さ 」
「 いきもの?? 」
「 ああ。 」
くしゃ・・・ 彼はポケットから煙草のパッケージを取りだした。
「 ちょいと息抜きすっか〜〜〜 」
彼は一本咥えると シャツの胸ポケットから100均ライターを出す。
「 あ〜〜〜〜 お兄さん いっけないんだあ〜〜〜〜〜
たばこ は おとなになってから だよ! 」
じ〜〜〜〜。 大きな瞳が少年を捕えて離さない。
「 い いいんだ。 オレはオトナだもの。 」
「 おとな? うっそ〜〜〜 そのキャップ、 オトナの?? 」
「 あ・・ これは ・・・・ その・・・ 」
女の子は 少年がかな〜り無理やり それも斜交いに被っているキャップを指した。
それは ・・・ とても窮屈そうで古びているが ― どうみても子供用だ。
「 ほ〜ら〜 お兄さん、オトナじゃないじゃん。 」
「 ・・・ こ これは ・・・ 俺の宝モノなんだ チビの頃から・・・ 」
「 タカラモノ? だいじってこと? 」
「 まあ そうだな〜。 」
「 アタシも! タカラモノ あるよ〜〜 貝! 近くの海でひろったんだ〜 」
「 そっか ・・・ ふうん ・・・ 」
「 キャップ、 お兄さんの だいじ なんだね〜 」
「 あ ああ まぁな〜 あるヒトが ぽ〜ん・・と投げてくれて さ
」
「 ふうん ・・・ だからず〜っともってるの? 」
「 まあ な 」
「 お兄さん やさし〜ね〜 」
「 お オレは そんなんじゃね〜よ ・・・ 」
「 そんなんだよ〜〜 あはは 〜〜 」
女の子は に〜〜〜っと笑った。
う ・・・ こ この笑顔 ・・・!
なんだってこんなに 熱い んだ?
なんだってこんなに ウレシイ んだ?
なんだって こんなに ・・・ きゅ〜ん とするんだ??
不良のジョー 怖いモノなんかない! 生活指導の先生に呼び出されようが へとも思っていない。
ただ 神父様に迷惑はかけたくないので表だってのワルサとか 公序良俗に反するコト には手出しはしない。
その分 所謂 < 裏番 > を張っていた。 < 一般 >の生徒からはなんとな〜く
避けられていたが 別にどうとも思っていなかった。
ふん。 どうせオレは さ・・・
オマエら お坊ちゃん・お嬢ちゃんとは違うぜ
ふん ・・・ ほっといてくれ 一人がいいんだ!
― そのはずなのだが なぜかこの少女にじ〜〜っと
見つめられると ・・・ 心の底がきゅん きゅん イタイのだ
こんなこと しちゃ いけない!!!
このコを悲しませては 絶対に ダメっだ!!!
彼の中で 誰かの、何かの声が 叫ぶのだ。
な?? なんだ なんだ なんなんだ〜〜〜 オレ!
「 あ お兄さん! のど かわいでしょ。 むぎちゃだよ〜 」
女の子は に・・っとわらって水筒をもちあげた。
「 ・・・それ オマエのだろ? 」
「 ウン。 いっしょにのもうよ〜〜 つめたいよ〜〜 」
「 え いいって。 オマエが飲めよ 」
「 お兄さんも〜〜 ほら ! 」
「 ・・・え いいのか 」
「 ウン! アタシものむから。 はい! 」
「 ・・・ 〜〜 うま〜〜〜〜 」
「 でしょ? ウチのむぎちゃ オイシイんだよ〜〜
お兄さん ありがと! 」
「 へ?? なにが 」
「 せみとり、おしえてくれて。 」
「 なんも教えてね〜よ オレこそ・・・ 麦茶 ありがと。 」
「 えへへ〜〜 あ セミさ〜〜んもありがと〜〜 ばいば〜〜い 」
「 あ 」
すぴかは 虫かごを開けて今までの収穫を解放してやった。
「 セミさんたちさ〜 ひろ〜いトコであそぶのが好きだよね〜 」
「 あ ああ そうだね 」
「 ウン。 」
「 ・・・ あ オレ 帰るな。 」
「 え ・・・ 」
「 オレ ・・・買い物頼まれて帰る途中にちょっと休んでたんだ。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 あ〜 チビ、お前の仲間はあっちにいるじゃね〜のか? 」
少年は 神社の表の方を指した。
「 あ いってみるね〜 お兄さ〜〜ん ばいば〜〜い 」
彼女は ちっこい手と補虫網をふりふり振って ― ぱっと駆けだしていった。
その後ろ姿を 彼はじ〜〜〜っと見つめている。
・・・ いいコだなあ ・・・ もうちょいおっきくなったら超美人だぜ〜
いいなあ〜〜 ・・・ あんなコ ・・・ いいぜ〜〜
うん。 あのコに手を出すヤツはこのオレが許さねえ!
??? だってオレ、あんなコがタイプなんだけど??
え〜〜〜 な な なんなんだ???
少年は 自分自身の滅茶苦茶な感情にもみくちゃになり ・・・・
ふらふらした足取りで神社の森を出ていった。
― その夜 町外れの教会付属の施設で。
トントン ・・・ 少年は神妙な顔で その部屋のドアをノックした。
「 どうぞ お入り。 開いていますよ 」
中からはいつもの穏やかな声が聞こえた。
「 あ あの ・・・ 」
少年は すう〜っとドアを開けた。
「 おや ジョー。 今日はなかなか熱心に掃除していましたね。 ありがとう、
助かったよ。 」
「 ・・・ 俺 ・・・ あ あの・・・ 」
彼は それだけ言うとポケットをさぐり黙って煙草を差し出した。
ぺこり。 彼はアタマを下げる。
「 ・・・ ジョー。 わたしはいつだって君を信じていますよ。 」
「 ・・・・・ 」
ぽと。 彼の足元に大粒の水玉模様ができた。
「 君は 立派なオトナですからね。
」
「 オレ ・・・ 」
「 わたしはとても頼りにしていますよ。 」
「 ・・・・ 」
彼はアタマを上げることができなかった。
この神父様の無償の信頼と愛情 そして 不思議な女の子の笑顔 が ジョーの支えになった。
彼が どんな時にも どん底に落ちても、自暴自棄にならなかったのは
この二人の思い出があったからだ。
夕方 ・・・ たたんた・たん が鳴る前にすぴかは ちゃ〜〜んと帰ってきた。
「 ただいま〜〜〜〜 いっちば〜〜ん だよぉ〜〜 アタシ! 」
仲間たち は神社の表側にいた。 すぴか達は存分に蝉捕り競争を楽しんだ らしい。
「 お〜 お帰り〜 すぴか〜 」
ジョーが玄関に出てきた。
「 おと〜さん! おと〜さんとおんなじ めいじん がいたよ! 」
「 めいじん? あ〜〜 セミ捕りの、かい。 」
優しい茶色の瞳が すぴかに笑いかける。
「 そ。 おんなじこと いってた! 」
「 ふ〜〜ん? ま 名人のワザとは普遍の原理だからな〜〜 」
「 ??? 」
「 あ すぐれたモノはみんなおなじ ってことだよ うん。 」
「 へえ ・・・ あのね かっこいいお兄さんがね〜〜 」
「 ・・・ なに??? 」
「 と〜ってもやさしかったよ〜〜 すぴか すきだぁ〜〜 」
「 な な なんだって??? 」
「 すぴかさ〜〜ん お帰りなさ〜い もうすぐご飯よ〜〜 」
お母さんも出てきて 汗まみれの娘からでっかい麦わら帽子を脱がしてくれた。
「 すぴか! そいつはどこの馬の骨だっ?? 」
「 ??? うまのほね??? なにそれ
」
「 あ い〜の いいの・・・ ほら 手を洗ってウガイしてきて? 」
「 は〜い きょう〜のごっはんは な〜にっかな♪ 」
すぴかは すきっぷ・すきっぷ でバス・ルームに飛んでいった。
「 ・・・ う〜〜〜 」
「 あのね ジョー。 すぴかはまだ小学生なのよ? 」
「 ・・・ う ・・・ 」
「 さあ〜〜 もうすぐ晩御飯よ〜〜 ね? 」
「 う うううう ・・・ 」
ちゅ。 ほっぺにキスを貰い ジョーはよれよれしつつリビングに戻った。
夏 は 夏の昼間
には
ご用心☆
夏 は 魔法の季節 夏の恋 も … ええ 夏は ね!
そう 真夏の昼 は ご用心
夏は ― 真夏は不思議な季節 ・・・
ご用心。 夏の光には ね?
************************* Fin. **********************
Last updated : 08,16,2016.
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*********** ひと言 **********
あは やっぱりこれは 平ジョー ですにゃ (*´▽`*)